真実と善と美

 日常の中で、見たり聞いたりした事について書いています。

読書感想文 スノーピーク「好きなことだけ!」を仕事にする経営

スノーピーク 「好きなことだけ!」を仕事にする経営
山井 太 氏 著

を読了しました。

 私はスノーピークという会社は「ヤマコウ」という社名の頃から高品質のアウトドア製品を製造販売している会社として知っていました。

 子どもの頃は親からキャンプに連れて行ってもらい、大人になってからは、毎年家族や親戚、友人など大勢で集まってバーベキューを楽しんでいます。

 私はそんな具合で、現在はそれほどアウトドアを楽しんでいるというわけではありませんが、昔から「アウトドア製品と言ったらスノーピーク」という風に、アウトドアの思い出の中に必ず目にするブランドです。

 最近、子どもに色んな体験をさせてあげたいと考える様になり、そして周囲でスノーピーカーが急増している影響もあり、あらためてキャンプなどのアウトドアライフを楽しみたいと考える様になりました。
 スノーピーク製品の販売店兼本社にたまに訪れるのですが、どの製品もシンプルで良質のものばかりです。ホームセンターで入手した安価重視のアウトドア商品を幾つか使っていますが、それらと使い比べるとスノーピークの製品の良さが非常に際立ちます。お店の中はとてもワクワクして来ます。

 余談ですが、私は学生時代、建築設計の勉強をしていて建築に大変興味があるのですが、社屋もとても素晴らしいと思います。
内と外の境を曖昧にし、中に居ながらにして外を感じる開放的な空間だと思います。

 我が家は「新潟県建築士事務所協会」のコンペに出品されたんですが、その時の最優秀賞はスノーピーク社屋で、我が家は敢闘賞と、スノーピーク社屋に及びませんでした。


 私はAppleやHarley Davidsonが好きで素晴らしい哲学と魅力的な製品にドキドキワクワクさせられていますが、同じくスノーピークの製品にもドキドキワクワクしています。
 私にとってアウトドア=スノーピークな訳ですが、これからアウトドアライフを楽しむにあたってスノーピークの製品を揃えて行くのが楽しみです。

 そんなスノーピークを古くから知りながらアウトドアからは少し距離を置き、これからアウトドアライフをもっと楽しみたいと思っているところ、スノーピークのお店でこの著書を見つけたわけです。
 以前から、この素晴らしいスノーピークブランドをここまで創り上げてきた会社と社長さんはスノーピークが掲げる理念にどんな思いがあるのか?どんな考えをお持ちなのか?大変興味がありましたので、楽しく読ませていただきました。

 


 最初にスノーピークの企業理念である、「Snow Peak Way」について紹介されています。

 私達スノーピークは、一人一人の個性が最も重要であると自覚し、

同じ目標を共有する真の信頼で力を合わせ、

自然志向のライフスタイルを提案し実現するリーディング

カンパニーをつくり上げよう。

 

私達は、常に進化し、革新を起こし、時代の流れを変えていきます。

私達は、自らもユーザーであるという立場で考え、お互いが感動できる

モノやサービスを提供します。私達は、私達に関わる全てのものに、

良い影響を与えます。

 スノーピークの製品やイベントの様子などを垣間見ると、この企業理念をよく体現していると、スノーピークに何らかの形で触れる人は皆そう思うでしょう。

 一人一人がリーダーシップスキルを発揮して主体性を持ち、目標を明確にして共有しているからこそ、素晴らしい製品を世に送り出すことが出来るのだと思います。

 そして、成功に甘んじず、変化を恐れず、業界の先駆者としての自覚を持って、アウトドア愛好家としての立場を忘れずにいる事が、スノーピーカーの信頼を得ているのだと思います。

 

 「スノーピークの特徴は顧客と経営者と社員、スノーピークという会社そのものとの距離が近い点にある。」と文中にあります。

 その為の取り組みとして「スノーピークウェイ」というイベントがあり、そこでユーザーや社長さんや社員さんらが焚き火を囲みながらアウトドアやスノーピークの製品の事などを語り合うそうです。

 製品やサービスの評価は大変貴重です。「楽天市場」に出店しているお店は値引きをしてまでレビューを得ようとしています。HarleyDavidsonのオーナーズグループからは毎年事細かなアンケートが来ます。自分たちが送り出した製品や自分たちが提供したサービスがどんな評価を得ているかで、商品やサービスを提供する側にとって次の手が見えてきます。耳に痛いレビューほど価値があります。

 こうしたユーザーと会社が交流するイベントで得られるレビューは多大な売上に匹敵する価値があると思います。

 スノーピークがユーザーとの交流をとても大事にしているところはとても納得できるし共感できます。そしてこうした取り組みは、製品開発にユーザーを巻き込む事で、ユーザーと製品の提供者側双方から「アウトドアライフを豊かにしよう」というエネルギーが発せられてアウトドアライフ全体、更には人生を楽しもうとする全ての人に良い影響をもたらしているのではないかと思います。

 

 世の中には、ユーザーと直接触れ合うことをしない経営者がいるようだが、私は正反対だ。積極的に顧客と話すし、テントを回って一緒にお酒を飲んだりする。それが自分の役割だと思っているので「面倒だ」と思ったことはない。私の仕事は簡単に言うと、自然と人をつなぎ、人と人をつなぐことだ。(中略)

 ユーザーを幸せにしている実感を直接持つことのできるビジネスはそれほどないと思うが、スノーピークのビジネスではそれができる。企業である以上、売上がアップするかどうかは経営者として最後には考えなければならないが、それ以前に社会的に意義がある事業を行っている意識がスノーピークにはある。この思いを社員と共有することが、仕事への高いモチベーションの維持につながっている。

 

 この一節を読んでサイモン・シネックのTEDのスピーチ「優れたリーダーはどうやって行動を促すか」を思い出しました。

動画はこちら

TED日本語 - サイモン シネック: 優れたリーダーはどうやって行動を促すか | デジタルキャスト

 

 人は「何」ではなくて「何故」に動かされるということです。

 サイモン・シネックの言う「何故」はスノーピークで言えば、企業理念の「スノーピークウェイ」であると思います。

 そしてこんな一節もありました。

製品には機能的な価値と、製品自体を支える精神的な価値がある。製品の機能的価値が価格以上であることに加え、最近では会社の姿勢、ポリシー、フィロソフィーといった精神性で選ぶユーザーが増えている。これは「正当性」「オーソドキシー」と言い換えることができるかもしれない。

 スノーピークスノーピークウェイという企業理念を踏み外すこと無く、何事においても根本にしてユーザーに発信し続けているからこそ、スノーピークファンの心を掴み、生活に新たな楽しさを求める人の注目を惹きつけるのだと思います。

 そして山井社長自らが、この「何故」を常に言動で示し発信し続けているからこそ、ユーザーは企業への信頼を寄せるし、社員はモチベーションを維持できるのだと思います。

 

  社会の中で人々の行動がこの「何故」によって促されている以上、文中にある通り、会社にとって大切なのは儲けを得るよりも、先ずは社会的評価を得る事だと思いました。

 

  人と人をつなぐということについて、こんな例が挙げられていました。

 例えばキャンプイベントのスノーピークウェイでは、集まった家族が3日間同じキャンプサイトですごすことになる。そんな中で「夕食のおかずを作りすぎたので、どうしようかしら」となれば、自然と隣のテントに差し入れるといった場面がよくある。すると、差し入れを受けた家族が今度は翌日の朝食のおかずから一品をお返しする。こうして、お互いに「感じがいいファミリーだなあ」と思うようになる。やがて子供同士が一緒に遊び始める。すると親同士もお酒を飲んだりしながら友達になる。こうしてどんどん友達が増えていく。

 日本の地域コミュニティーでかつて起こっていたことがキャンプ場で再現されている。これこそがスノーピークが媒介になり、コミュニティーができていることの意義だと思う。

 昔は「地縁」というものが大事にされていました。地域でのコミュニティが最も重要視され、様々な行事なども地域一丸となって行われて、隣近所は家族の様でした。

 次第に「地縁」が薄くなり始めて、代わりに「職縁」というものが重要になってきました。職場のコミュニティが最も重要視されました。職場の旅行に家族を伴ってい行くのが当たり前で、仕事後の飲み会や休日のゴルフなどの遊興も職場に関するものばかりになりました。選挙運動や労働組合の活動も同様です。

 今現在は「職縁」が薄れて「価値ある縁」が大事にされています。自分にとって価値のあることであれば、地域の枠も職の枠も越えます。自分にとってそれに価値があると思えば地域関係なく賛同するし、仕事の枠も関係ありません。

 キャンプでのこうしたコミュニティーは、全く別々の暮らしを送りながら、一点の共通の価値観があり、その一点から素晴らしい縁が生まれたのです。

 そして、その価値ある縁を築けたのも、スノーピークの企業理念に拠るものだと思います。

 

 キャンプの魅力について本書の中で沢山書かれていますが、その中で大変共感出来る、キャンプの魅力がありました。

 キャンプを楽しんでいる人は分かると思うが、テントで2泊すると3日目の朝には、体のリズムが自然のリズムとシンクロする感じが出てくる。私にとってはこれがキャンプをする楽しみの1つになっている。

(中略)

 スノーピークは「人生に野遊びを。」というキャッチコピーを掲げているが、アウトドアとは普段の生活自体とは違う生活パターンであり、それは原始的といってもいいだろう。普段と違う空間に身を置くことによって、本来人間が 持っているリズムが分かるような感覚がある。「五感で感じる」と表現してもいいだろう。私はキャンプにそんな楽しみを感じている。

(中略)

 自然の時間を感じることは、経営者としてもプラスになっている。

 数年に1回レベルの重要な決断をするとしたら、私ならばキャンプで2,3日アウトドアに身を置いてから、自分の心が赴くほうを選択する。五感を磨いてから決めることこそが正しい選択ではないかと思っている。

 

 人間は普段の生活の中では色んな制約に縛られています。時間や生活習慣、規則、社会的常識などです。そして人は何かにつけ、自分ではない他の物事、自分を取り巻く制約に責任を転嫁しています。

 他が「したorしない」「言ったor言わない」に対して、知らず知らず責任を押し付けているのです。本来ならば様々な物事に対しての自分の感じ方に責任があるのです。

 無為自然の中に身を置くと、心は内省的になります。そして全ては自分自身の物事への感じ方次第であることが解ります。そして、身も心も無為自然になることで全てはひとつであることに気付くでしょう。それは大変気分の良い体験です。キャンプにはそういった要素が多くあると思います。

 そして無為自然であるときというのは、最も創造的である状態です。心がどこにも依らず留まらずにある状態です。

 宮本武蔵五輪書の空の巻がありますが、同じ意味合いです。

空の巻にはこう書いてあります。

空の巻

 空に善有り悪無し

 智は有也

 利は有也

 道は有也

 心は空也

  素晴らしい妙なる有は、真なる空から成るという意味です。

 人によって無為自然の状態、空の状態になれる場面というのは色々とあると思います。

 私の場合はHarleyで走っている時や、瞑想や太極拳をやっている時、それと剣術をやっている時です。

 キャンプは自然の中に身を置いて自然と同調し、無為自然になれる素晴らしいものだと思います。瞑想や武芸を磨くために何日かキャンプで過ごすのもいいなと思いました。

 

 

 自然の中というのは人にとって大変有意義で豊かな時間を与えてくれます。

 スノーピークアウトドア用品の会社であり、自然志向のライフスタイルを提案する会社であるわけですが、今後はもっと社会の中でその範囲を広げて欲しいと思います。

 それに関してこういう一節がありました。

 「アーバンアウトドア」これはスノーピークがこれまでアウトドアでやってきたこと、つまり突き抜けた品質のものを日常生活に対して提供していくことだ。圧倒的に品質がよく、デザインも良い製品を使えば、そうでない製品を使うよりも豊かな生活ができると私は確信している。

(中略)

 スノーピークはこれまで事業を通じて、人と自然をつなぐことを目指してきた。こうした取り組みを本質的に掘り下げていくと、さらにコアな価値が見えてくる。それは「人間性の回復」だ。

 高城剛氏は自身の著書で「世界のクリエイティブのトレンドはどこを向いていますか?」という質問に対して「「外」を使ってクリエイティブをする事」と話しています。

 ロケも畑も、風力発電も、屋外でDJをすることも、すべてのジャンルで屋外でやることがトレンドです。高いレストランなのに都心ではなく田舎や郊外まで行く。音楽は利便性の良いライブハウスよりも野外フェスなどの屋外。音楽は「何を聴く」よりも「どこで聴く」の方が重要になっています。家の電話よりも携帯電話。外での活動が長ければ長いほど、二十一世紀の感覚の生き方がつかめると思うと言っています。

 

 人の意識がアウトドアに向くのはブームではなくて文明の流れなのかもしれません。

 人それぞれが多様な価値観や楽しみを自然の中に求めるにあたり、スノーピークはキャンプのためのキャンプ用品、アウトドアレジャーのためのアウトドア商品だけでは、社会がアウトドアに求めるものに対してカバーしきれなくなるのではないかと思います。

 

 人々は今まで通常は屋内でやる様々なことを、屋外でやり始めています。アウトドアというのは、ただ自然の中でキャンプやバーベキューなどをして過ごすだけではないと思います。様々なアウトドアの活動に対してスノーピークの提案があっても良いのではないかと思います。

 ただ屋外で何かをする為のライフスタイルの提案はどこのだれでも出来ますが、自然と人間とが調和した屋外での活動を提案できるブランドはスノーピークの他に無いと思います。

  そして将来的には、自然志向のライフスタイルを提案・実現する会社として、建築との融合を目指して欲しいです。

 建築空間、言い換えればインドア空間とは、床、壁、天井の建築の要素を以って創りだされた空間です。そして、素晴らしい建築というのはその建築の三要素でもって切り取られて余った外の空間を取り込む建築です。

 世界に名だたる建築は全てこの要素を持っています。

 つまり、上質なインドア空間はアウトドアの要素が取り込まれているわけです。

  スノーピークはアウトドアから建築空間にアプローチを、建築はインドアから建築空間の質の向上を目指すことで、建築空間の内部と外部の接点から革命を起こし、人間が日常的に過ごす建築で、自然志向の人間性の回復を目指すことができます。

 スノーピークの本社屋は素晴らしい建築です。あの自然を取り込み、スノーピークの哲学が詰まった建築を社会一般に普及して欲しいと思います。

 庭を確保できる家ばかりとは限りません。都市型の狭小住宅もありますし、集合住宅もあります。しかし、建築の三要素の一つでも取り除くと、そこは建築空間ではなくなり、外部空間、自然空間になります。

 自宅にいながらにしてアウトドアを楽しめる、自然志向型の日常生活を提案して画期的な製品を送り出し、世界中が驚くような、フランク・ロイド・ライトが生き返っちゃうような新しいライフスタイルを提唱してほしいと思います。

 

 スノーピークは、人類の新しい生き方を提唱できる数少ない企業であると、私は思います。

 この本を読んで、スノーピークで働く人が本当に羨ましいと思いました。